「もうすぐ、栞の誕生日か」
彼女と別れて、俺は一人雪の街から離れた。辛かった。悲しかった。香里はずっと辛かっただろうと思う。俺よりもずっと、もっと。栞が居ないと分かってる。奇跡なんて早々起こるものじゃないというのも。
『祐一さん』
あの声はもう二度と聞けない。分かってる。高校三年の受験生にとって辛い事だけど。あの現実を受け入れてるつもりだ。
「相沢くん」
「香里、どうかしたのか?」
「栞のこと考えてたんじゃないの?」
「分かるか?」
「貴方が落ち込んで、あまり喋らないときはね」
「しかし、香里とこんなところで出会うとは思わなかった」
「そう? 私からしたら、そっちに驚きよ」
雪の街から南下した街の所。そこで再会したとき、お互いに何で居るのって感じだった。だが、よくよく考えたら分からないでもないのだ。
「で、受験大丈夫なのか? 確か高校も変えたんだろう?」
「大丈夫よ。多少は厳しいけど」
「そっか」
「そっちは?」
「推薦もあるし、普通のほうで幾つか受かってる」
「私立」
「ああ」
お互いに軽い近況。
「栞のお墓、参る?」
「良いのか? 俺は香里の妹を殺したようなもんだぜ」
深夜のデート。それは危険行為だっただろう。もっと考えるなら、そう思ってしまう。
「それに関しては私は何とも思わない。あの子が受け入れたのだから。両親も最初考えてたようだけどね。もし良かったら、お墓参りしてあげて」
「分かった」
「それと、あまり元気ない姿見たく無いわ」
「見せないで、じゃないんだな」
「ええ。勿論、それは私が言うべきじゃないけどね」
落ち込みに落ち込んだ香里はその後吹っ切ったように頑張ってるからな。俺とは違う。俺は流れるままにだ。
「香里、俺は目標が定まらない。でも、話を書こうって思う」
「話?」
「お話の中でくらいハッピーエンドが良いじゃないですかって奴だ」
「ああ。そうしてあげて。喜ぶわ」
「さんきゅ」
物語は紡がれる。俺と栞の物語は最後はハッピーエンドであって欲しいから。
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