「アリシアさん、こちらにどうぞ」
「あらあら、ありがとう」
アリシアは誘われた椅子に座る。ARIAカンパニーを辞めて、理事の方に就任した。時間があれば、やはり着てしまう。心配というのもあるが、居心地が良いのだ。旦那さんの傍が居心地が悪いというわけではない。ただ、こうやって見に来てしまうのは、懐かしさから。自身の弱さであり強さ。旦那さんからは
『ちょっと寂しい気はするけど、僕も旧職場に出向くときがあるのだから、僕が反対したら悪者でしょ』
と笑顔で言い切って送ってくれる。
「灯里ちゃん」
「はい?」
「うまく出来るようになったのね。クリーム乗せココア」
「喫茶店のオーナーに教えてもらちゃいました。お客さんにうまく出したいからって言ったら」
「そう」
笑みを浮かべて飲む。美味しい。あったかなココア。この生クリーム乗せココアだけは教えてもうまく出来ず落ち込んでいたのを思い出す。どうしても出来ないので悲しそうにしていた。飲み物も大量に飲むわけじゃないし、毎回出来るわけじゃない飲み物。
「そういえば、アリシアさんの旦那さんがこの前、きてくださって」
「リオが?」
「はい。お客さんのご案内をお願いしますって。地球からの人を数名。色々頼んで回ってるそうでオレンジプラネットや姫屋にも行ってたみたいです。私のところもいらしてくださって、一緒に乗ってくださったんですよ」
アリシアは目を少し上に向ける。自分がゴンドラを運転してるときは来なかったのにという想いからだ。しかし、お互いに忙しいために時間もあまり合わない事が多いので何とも言えないのだが。
「リオ、大丈夫だった? 乗り物弱いから」
「え? そんなことなかったですよ。普通でしたし、帰りも送りますって言ったら、『アリシアに悪いし良いよ』って歩いて帰っちゃいましたし」
「…」
あまり乗り物が得意ではないが、地球からの観光客に色々と進める人である。ようは旅行店店員みたいなものである。
「そう。でも、リオがね。身内贔屓はしない人なのに。よっぽと灯里ちゃんのは気に入ってるのね」
「そういってもらえると嬉しいです。在住者も楽しめるツアーとかは悪く無いと思いますし」
「そうね。今度お休みの時、リオと一緒に遊びに行きましょうね」
「え? 良いんですか? お邪魔では?」
「大丈夫よ。一緒に知らないところを探索しましょうって事だもの」
「それは嬉しいです」
「何時になるか分からないのがネックなのだけどね」
なんだかんだで時間が取れないなぁと少しスケジュールを思い出して凹む。灯里は笑顔でアリシアを見ている。
「大丈夫ですよ。そのうち、お二人の予定があいたら教えてください。少しでも一緒に回りましょう」
「そうね。ありがとう」
アリシアは笑顔で答えた。そう、あいたときは頼もう。アリシアにとって、灯里は最高の生徒だったんだから。
(リオというのは一応アリシアさんの旦那さんの名前ですので)
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