「あけましておめでとうございます、秋子さん」
「おめでとうございます、祐一さん。ところで、こんな朝早くにどうしたんですか? 確か夜中に出て行って初詣も終わらせてきたと思うのですけど」
「ええ。目が覚めたのでこのまま起きようかと。名雪たちは寝てるでしょうが」
「そうね。名雪も一緒に行ってたのですし、今日はずっと寝てるでしょう」
「受験しなくて良いからでしょうね」
「祐一さん、あのこと本気ですか?」
「ええ」
水瀬秋子は今年終わる少し数日前に相沢祐一の進路について聞いた。それまで一度も相談もされてなかったし、どうするのかは具体的には聞いてなかったが、本人の口から出た言葉に驚きこそすれ、それは仕方ないと思った。
『親友がその町にいて俺に着て欲しいって頼まれたんです。最初俺も難しいと言ったのですが、家のことや大学も近くあるし、学力も大丈夫そうなので、そちらを受けてみます。落ちるかもしれませんが』
そういって、苦笑いと共に担任の前でも言ったのだ。秋子としては寂しいという思いもある。だが、そういうものなのかもしれない。名雪もそのうち出て行くことになるかもしれないのだから。
「今更聞いては悪いのですが、あゆちゃんや真琴に伝えてあげますよね?」
「決まったらです。流石に先に言って、落ちましたって事だと格好もつかないですし、俺が恥ずかしいんですよ」
「そうですか」
もう少し前に伝えて欲しいというのは秋子本人の我侭だ。今のこの時間だって本人にしてみれば惜しいだろう。
「あちらの親友は大切な女性ですか?」
「違います。本当に大切な友達です。俺がふて腐れ、塞ぎこんだ時期に手を取ってくれた」
「そうですか。それじゃあ、尚更頑張らないといけませんね」
「はい。あ、コーヒー貰っていきますね」
インスタントだが、祐一は好んで飲む。単なる眠気覚ましとかなら、秋子自身が入れたほうがいいが、インスタントを飲むのは祐一だけだ。『秋子さんのより美味しくないけど、飲むとちょっとだけすっきりするから』とのこと。秋子としてはつまらない部分だが、紅茶などは入れるのだから、こだわりがあるのかないのかという所だ。
「秋子さんには無理とか、我侭とか言いっぱなしですみません」
「いいえ。良いのですよ。昼過ぎには起こしますので」
「はい。楽しみにしてます」
祐一が言ってるのはおせち料理だ。秋子がおきてた理由はそれだ。普段とは違う豪華な料理の数々。名雪たちが起きてからというわけだ。祐一は一つお皿から太巻き寿司を取っていってしまった。
「あらあら」
ああいう部分は昔と変わらない。小さな頃、ああやって取っていったなぁ。つまみ食いというにはちょっと豪快だが、それがまた男の子だと思うと良いなぁと姉を見たものだ。ああいうのも楽しそうだという意味で。
「もうすぐで終わりですし、祐一さんの部屋にあまりを持っていきましょう。おなかもすいてるでしょうしね」
手を動かして水瀬秋子はお皿に分けていく。優しく、丁寧に。楽しそうに。
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