美坂香里は優等生である。が、学生首席でありながら、一度として生徒代表にはならない。
クラス委員長というのもしたがらない。本人曰く「柄じゃないから」とのこと。
そして、そんな彼女と仲が良いのが水瀬名雪だ。眠り姫ともいわれてる。そして、北川潤と入れてよく三人で居ていた。あの頃、北川潤の男たちからのあたりは悪かった。二人とも美人、美女の部類であるからだ。
そこに相沢祐一という青年が加わった。
周囲の青年たちにとっては更に仲が良いというか、水瀬名雪の従姉妹という事もあって警戒心があった。が、本人は名雪の寝る執着心やらであまり好まない様子が見受けられる。転校になれてるというのもあるだろう。
だが、この相沢祐一は過去に此処に来ていたそうだ。だからこそ、知り合いも居たのだとかで、一ヶ月で色々な女性と話をしていた。といっても、知り合いは数人で更に知り合いというのがほとんどだとか。
「相沢祐一って……ゆうくん?」
それは一人の一年生の呟き。それを聞いた男たちは驚いた。普段はあまり他者と関わらず、どこか遠ざけてる少女が親しげにそれこそ笑みを浮かべて呼んだのだ。彼女の名前は逢坂(おうさか)かな。
「忘れられてるかもしれない。それでも、ゆうくんだったら」
彼女はクラスを後にして、相沢祐一の所に向かう。廊下では無理なので、非常階段の踊り場で彼はよく食事を取ってると聞いていたのでだ。
「こちらに相沢祐一先輩おられませんか?」
「ん、俺だけど」
かなはしっかりと祐一を見つめる。祐一は首をかしげた。誰か分からないから。7年前の記憶が無いのは本人にとっても辛いことだった。あゆのことも思い出せないから。
「あ、じっと見てしまってすみません」
「構わないけど、えっと、どちら様? 俺のことは知ってるみたいだけど」
「昔、遊んでもらった事があったんです。私一人っ子で友達も居ないときに分け隔てなく遊んでくれて、それを覚えていたんです。年齢が近いからもしかしてって思いがあって」
「その人にお礼をって事か。でも、違うかもしれないからって事?」
「はい、すみません。紛らわしくて」
「いや、凄いなぁって。俺なんて過去の記憶辛いからって封印してたんだぜ」
「辛いことの場合仕方ないと思います。でも、何となくですが、相沢祐一先輩が当人の気がします」
「そうか?」
「ええ。どうもあの時はお世話になりました。あの後から少し友達が出来ましたし、違う高校ですが友達も居ますから」
「そか。良かったな」
「はい。それじゃあ、もしも会ったら声かけてくれますか? 私からもかけますし」
「良いぜ。昼はたいてい此処に居るし」
「はい。でわ、先輩方失礼します」
かなの足はかなり軽かった。間違いなく相沢祐一がゆうくんであると核心がもてたのだ。勿論、それでどうこうは無いのだが。そして、本人も何となく理解していただろう。あの頃、相沢祐一も一人が寂しいと分かっていた年頃なのだから。
「祐一、あの子誰?」
「さっき出てただろ」
そんな会話を背に受けつつ、かなは相沢祐一のことを思い返していた。長い髪の毛でちょっと中性的な顔。過去、会った時とちょっと似てる目。根幹は中々に変わらない。かなにとっては友達が帰ってきたのだから。
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