「香里、どうかした?」
「あ、川澄先輩、どうかしたというより相沢くんを探してるんだけど」
「用事でもあったの?」
「ええ。相沢くん、進路希望出してないみたいで。先生が探してるって伝えてって頼まれて」
「私も今探してるのだけど」
学内に入ってきてる先輩というのも珍しいけど、去年の卒業生。それに知ってる生徒も多いから問題は無いのだろう。先生方にしても生徒会の人にしてもだ。
「屋上手前か図書室とか保健室?」
「保健室は見てきたわ」
「じゃあ、先に図書室見よう」
「帰っては居ないのよね」
「靴はあった」
探す。一応大学進学だけど、どこ大学とか詳しく書かないといけない。そんな希望調査書を書いてないのは問題なのだ。勿論、書けない場合はちゃんと先生に言えば問題は無いのだが、それもしてない。
「あ」
「え」
相沢くんは居た。屋上にシートを引いて、倉田先輩の膝枕で寝ていた。ええっ!!
「あ、舞、それに香里さん」
「え? 舞に香里」
むくっと起き上がる相沢くん。
「佐祐理、何で祐一に膝枕?」
「最初祐一さんが寝てたんですよ。もう少しで階段から転げ落ちそうだったので起こしてこうしたんです」
「寝相はそんなに悪くないんだけどな」
「あはは~」
ちょっと嬉しそうな倉田先輩。私と川澄先輩は二人をちょっとにらむように見てしまう。
「それで、何か用事でもあったか?」
「進路希望調査書についてよ。相沢くん、提出忘れてるでしょ」
「うぁ。すまん、助かった」
ポケットから取り出してるし。提出忘れてたのね。川澄先輩は?
「祐一、明日なら時間が空いたから」
「了解。助かるわ」
「えっへん。じゃあ、私はバイトがあるから。佐祐理も教えてくれたらよかったのに」
「佐祐理はたまたまだよ。祐一さんに勉強教えてたし」
ああ。それで相沢くんの学力が飛躍的に上昇したのね。納得だわ。
さて、私も帰ろうかな。相沢くんにはまだ負けてないけど、上がってきてるのは確かなわけだし。
「じゃあね」
「ああ。またな」
「祐一、佐祐理の膝を楽しむ前に勉強ちゃんとしないと駄目だよ」
「分かってるって。ちゃんと持ってるだろ」
テキストを持ってたようだ。寝てたわけじゃないみたいだ。軽く手を振って歩く。やはり良い先生が居たんだなぁ。本人は聞かれて困っていたけど。
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「蒸し暑いね」
「水分補給とか忘れずにな」
「うん」
「熱中症とかになったら大変だしな」
美由希と恭也はペットボトルに飲み物を入れて、木刀などを持つ。鍛錬は必要だからこそ、日課として取り入れてる。だが、その過程で熱中症などは危険なものだ。自然的なものにはいくら御神の剣士と言えど危険が伴う。そのために、夏場になると鍛錬にお茶などを持ち込む。その量が普段より増えるのだ。
「今日は走りこみ。その後打ち合いだ。休憩時間中に飲み物は必ず飲むようにな」
「分かりました。師範代」
返事を聞いて恭也が頷く。そして、お互いにもう一度頷くと走り出す。神社へと走っていくのだ。
「あ」
「む」
二人同時に声を上げる。そして一気に水が振ってきた。雨である。急な雨に二人はぬれねずみだ。鍛錬の途中。剣戟の最中。美由希は恭也を見ようとして己が空を見上げたことが油断に繋がったと考えた。恭也はその隙で美由希に致死なみの一撃を繰り出していた。勿論寸止めである。
「負けました」
「ま、凄くずるい勝ち方だがな」
「あはは。でも、私の油断だね」
「すぐに気づいたからな。良しとしておこう。じゃあ、今日はこれまで」
「はい」
荷物を纏めて帰る。そんな二人。とある梅雨の鍛錬風景だった。